斜陽 ★★★☆☆
没落していく貴族。
貴族の呪縛を自ら破り、かず子は次第に世間(慣習、道徳)で生きていく強さを身につけていく。
そのかず子とは対照的に、世間に合わせることが出来なかった弟の直治。
遺書でその苦悩が初めて分かった。
生きづらさ、苦悩、涙が多い内容のためか、かず子の母親への愛情、直治の遺書で初めて見せた本音の母親への愛情、いまわのきわに弟に息子と娘を頼む母親の愛情が際だった。
星3つ。
p.419
ああ、何かこの人たちは、間違っている。しかし、この人たちも、私の恋の場合と同じように、こうでもしなければ、生きて行かれないのかも知れない。人はこの世の中に生まれてきた以上は、どうしても生ききらなければいけないものならば、この人たちのこの生き切るための姿も、憎むべきではないかも知れぬ。生きている事。生きている事。ああ、それは、何というやりきれない息もたえだえの大事業であろうか。
p.439
人間は、みな、同じものだ。
なんという卑屈な言葉であろう。人をいやしめると同時に、みずからをもいやしめ、何のプライドもなく、あらゆる努力を放棄せしめるような言葉。マルキシズムは、働くもの優位を主張する。同じものだ、などとは言わぬ。ただ牛太郎(ぎゅうたろう 遊女屋で客引きをする若い男)だけがそれを言う。「へへ、いくら気取ったって、同じ人間じゃなええか」
なぜ、同じだと言うのか。優れている、と言えないのか。奴隷根性の復讐。
けれども、この言葉は、実に猥せつで、不気味で、ひとは互いにおびえ、あらゆる思想が姦せられ、努力は嘲笑せられ、幸福は否定せられ、美貌はけがされ、栄光は引きずりおろされ、所謂「世紀の不安」は、この不思議な一語からはっしていると僕はお思っているんです。
人間失格を読んだ後だと、太宰治の本音を直治を使って述べさせていると思える。
p.451
あのひとの持っているのは、田舎者の図々しさ、馬鹿な自信、ずるい商才、それだけなんです。
自分は高貴な人間と思われたくないと語った遺書の中で、人を蔑み見下す直治。
矛盾していると思った。
p.463
それは、私の生まれた子を、たったいちどでよろしゅうございますから、あなたの奥様に抱かせていただきたいのです。そうして、その時、私にこう言わせていただきます。
「これは、直治が、或る女のひとに内緒に産ませた子ですの」
なぜ、そうするのか、それだけはどなたにも申し上げられません。いいえ、私自身にも、なぜそうさせていただきたいのか、よくわかっていないのです。で、私は、どうしても、そうさせていいただかなければならないのです。直治というあの小さい犠牲者のために、どうしても、そうさせていただかなければならないのです。
これの意味は何だったんだろうか。
さっぱり見当が付かない。
内容紹介
古い道徳とどこまでも争い、太陽のように生きる一人の女。結核で死んで行く【日本で最後の貴婦人】のその母。昭和二十二年、死ぬ前年のこの作品は、作者の名を決定的なものにした。