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燃えよ剣〈上〉 2014年5冊目

燃えよ剣〈上〉 ★★★★★



数年前に新撰組に興味を持ちこの本を買って積んでいた。
新撰組だけでなく幕末に関して読む初めての本になる。

戦術、人事には最先端の洋式を取り入れる。が、隊のルールは旧来の武士精神を取り入れる。根は無骨な旧来の武士だ。しかし政治的思想はなく、土方歳三はただ強力な戦闘集団を作り上げたかった。

ここが他の浪士と違う。
政治的思想がないということは、ただただ戦闘がしたい、もしくは近藤という男を大名にしたいというだけで人を斬っていたということだ。
そんな大義名分のない人斬りを「かっこいい」と思ってしまうのは、一本芯が通った土方歳三の持つ男気に惹かれたのかもしれない。

そして時代背景も面白い。
豊臣は秀吉が死んで実質終わった。しかし徳川は家康が死んでも300年続いた。他藩を抑える完璧な制度を築いたんだろう。しかしあまりに完璧すぎて300年の安寧が幕府の弱体化を招くという矛盾を生んでしまう。



もしかしたらもうちょっと背景知識があったら以下のような疑問を持たずに読めて楽しめたかもしれない。

  • 新撰組長州藩、互いに攘夷思想なのに殺しあう。
  • 数万の兵を持つであろう江戸幕府は何をやっていたのか?

長州や土佐のような付け上がりが出ないように、参勤交代、目付の派遣、息のかかった大名を遠くに飛ばし監視させる、お家取り潰し、一国一城という厳しい対策をしていたはずだ。
幕府の懐事情が厳しかったら適当に理由をつけて金を接収してもいい。大名が増長しはじめたら隣国に命令して攻め落とさせればいいのではと思う。

  • 清河の暗殺のために幕府側がたかだか浪士の芹沢に密命するのだろうか。自分の駒はないのか。幕府軍はどうした?おおっぴらに動けないくらい攘夷の輩が怖かったのか?
  • このとき、東北では動きはなかったのか?伊達家、上杉家など大大名は何をしていたんだろう?

燃えよ剣〈下〉 2014年6冊目 - How Many Books Do You Have?

p.188

(あっ)と声をのんだのは、一同だけではない
清河と手を組んで浪士組結成のための幕閣工作をした幕府側の肝煎たちである。

裏切った幕府側を逃したら事が露見するし、斬っても露見する。
ということは寝返らせたんだろうけど、どうやったんだろう。

p.189

維新史上、反幕行動の旗幟(きし)を鮮明にあげた最初の男は、この壬生新徳寺における清河八郎である。清河は、兵は持たぬ天皇のために押し付け旗本になり、江戸幕府よりも上位の京都政権を一挙に確立しようとした。いわば維新史上最大の大芝居といっていい。

野望がでかい。初めて名前を見たが、こんな大それたことするなんて清河八朗は大人物なのではないか。


p.249

「おれがもしその四つに触れたとしたら、やはり斬るかね」
「斬る」
「斬るか、歳」
しかしそのときは私の、土方歳三の生涯もおわる。あんたの死体のそばで腹を切って死ぬ。総司(沖田)も死ぬだろう。天然理心流も新撰組も、そのときが最後になる。――近藤さん」

p.327

「実にこれまでたびたび戦ひ候へども、二合と戦ふ者は稀に覚え候ひしが」

局長、どれだけ強いんだ。
でも道場時代は弱くて代役を立てて片里と戦わせてたのはなんでだろうか。これは虚言なのか?


p.333
「出動は五ツ」
ということで、京都守護職会津藩)と約束してある。

動員が重鈍で、まだ市中に一人も出ていない。藩の軍事組織が、三百年の泰平でここまで鈍化してしまっているのである。
「諸藩、頼むに足らず」
歳三が、近藤に決心をうながした。近藤は無言で、立ちあがった。
すでに、午後十時である。

五ツ(午後8時)に集まるはずが午後10時にも集まらない。安寧に暮らしている江戸の幕府軍じゃなくて、渦中の京都の幕府軍がこの体たらく。
いかに幕軍の規律が緩んでいるかが分かる。


p.342

近藤は、志士をもって任じている。新撰組の最終目標は、攘夷にあるとしている。

そもそも京に上がったのは”攘夷者をほったらかしにしていると危ないから、将軍を守るという建前で飼いならす”ため。だから佐幕・尊王・攘夷は分かる。
しかし攘夷ということは幕府とは相容れないのでは?


p.413
――新撰組が、なんのために人を殺さねばならぬのか、私にはわからなくなった。われわれはもともと、攘夷の魁になる、という誓いをもって結盟したはずではないか。そのはずの新撰組が、攘夷決死の士を求めては斬ってまわっている。おかしいと思わないか。沖田君。

この山南の発言がまさしく自分の持っている疑問だ。


p.471

なるほど新撰組尊皇攘夷の団体だが、尊皇攘夷にもいろいろある。長州藩は、どさくさにまぎれて政権を奪ったうえで尊皇攘夷をやろうとしている。これとはちがい、親藩会津藩尊皇攘夷は、幕権を強化した上での尊皇攘夷である。

長州藩は欲を出さずに攘夷の元に会津藩と協力すればなんの問題もない。しかし会津と長州は憎み合っていることが伺えるので、思想以外に私怨がおおいに絡んでいるんだろう。





内容紹介
幕末の日本で、敵からも味方からも最も恐れられたのがこの男。

幕末の動乱期を、新選組副長として剣に生き、剣に死んだ男、土方歳三の華麗なまでに頑なな生涯。武州石田村の百姓の子“バラガキのトシ”は、生来の喧嘩好きと組織作りの天性によって、浪人や百姓上りの寄せ集めにすぎなかった新選組を、当時最強の人間集団へと作りあげ、自身も思い及ばなかった波紋を日本の歴史に投じてゆく。人気抜群、司馬遼太郎の“幕末もの”の頂点をなす長編。