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苦役列車

苦役列車 ★☆☆☆☆

卑屈で屈折した性格、劣等感(コンプレックス)の塊の主人公だった。日下部が出てくると更にそれが際立つ。

なぜ日雇いを毎日しない?、なぜこつこつお金を貯めない?、なぜ金がないのに酒を飲みタバコを嗜む?、なぜ倉庫番へ上がって社食で食べる優越感を捨ててしまう?
自分には理解できない行動であった。

著者は”性犯罪加害者の子として11歳の時に決定づけられた”と言っている。
分からなくもないが、それは違ってどんな境遇だろうと、本当は自分の心の持ちよう一つで浮かび上がれたはずだ。
そんな自分をつくったのは自分なのだ。
言い訳では明るい未来は語れない。
ただただ言い訳の連続だったので★1つ。

p.102 
そして更には、かかえているだけで厄介極まりない、自身の並外れた劣等感より生じ来たるところの、浅ましい妬みやそねみに絶えず自我を浸食されながら、この先の道行きを終点まで張ってゆくことを思えば、貫多はこの世がひどく味気なくって息苦しい、一個の苦役の従事にも等しく感じられてならなかった。

苦役の従事を抜け出すチャンスはあった。
倉庫番に上がったこと、フォークリフトの免許を取るチャンスを与えられたこと。
それらを握りつぶしてしまったのは、他でもない自分自身だ。

商品の説明
第144回(平成22年度下半期) 芥川賞受賞
内容紹介
劣等感とやり場のない怒りを溜め、埠頭の冷凍倉庫で日雇い仕事を続ける北町貫多、19歳。将来への希望もなく、厄介な自意識を抱えて生きる日々を、苦役の従事と見立てた貫多の明日は――。現代文学に私小説が逆襲を遂げた、第144回芥川賞受賞作。後年私小説家となった貫多の、無名作家たる諦観と八方破れの覚悟を描いた「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」を併録。解説・石原慎太郎