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絶歌 2016年21冊目

絶歌 ★★★★☆



観察眼が鋭いと思った。
情景描写、人物描写がかなり詳細だ。

まるで第三者目線で世界を見ているかのようだ。
もしくは虚構の世界を描いているのかのようだ。



文章はレトリックに溢れている。ごてごてに飾りつけた美しい文言からは少年Aの本音がなかなか見えない。

最後の被害者家族への謝罪文のように素直に書けば良いのにと思った。
編集者の手が大幅に加わっているのか?と疑ってしまう。



前半は殺人の顛末と獄中生活

少年Aは典型的な劣悪な環境で育てられた殺人鬼ではなく、両親の愛を受けて育っている。
家庭環境が原因じゃないとしたら、何が原因で人を殺してしまったのか?


祖母の死をきっかけに「死とはなにか」に取り憑かれ、生き物を解剖し始める。

けれども、幼い時に大切な人との永遠の別れを経験する子供というのは数多くいて、社会生活をつつがなく送っている。



少年Aの言うように、「死への興味」と「性の芽生え」がたまたま時期的に重なったためなのだろうか?

それもあるかもしれないが、少年Aが生まれ持った暴力衝動が殺人へと駆り立てたのではないだろうか?

隣の席の無口な男の子殴ったりつねったり、淳君をメリケンサックのように手に巻いた時計で殴ったり、次男、三男を殴ったり、カメラを振り払ったり…。

かなり異常だと思う。
いずれも被害者は自分より弱い立場の者達だ。

確か、クラスの無口な男の子の声が聞きたくて殴った時期は祖母の死より前だったと思うので、祖母の死はきっかけではなく悪化する要因だったのではないだろうか。

生まれ持った「暴力衝動」。そこへ「祖母の死」、「死への興味」、「性の芽生え」でエスカレートしていく…。


親が精神科に連れて行って暴力衝動の緩和やコントロールの仕方を学べていたら何か違ったかもしれない。

ただ、はっきりとおかしいと思わなければ、なかなか親としては我が子を精神科には連れて行きづらだろう。そういったグレーゾーンにいる人はたくさんいると思う。




後半は社会復帰と贖罪

社会に出て必死に働き生きていく過程で、自分がしてしまった取り返しの付かないことに気づく。
確実に更生していると思った。



次は少年Aの両親の手記『「少年A」この子を生んで』を借りて読んでみようと思う。


本に出てくる少年Aが好きな曲 ユーミン 砂の惑星

砂の惑星 - YouTube


p.128

当時僕は赤マルを一日一箱は空けていた。

どうやって400円ぐらいするタバコを中学生が毎日買うことができたのだろう。このことに両親は気づかないのだろうか?


p.233

山地悠紀夫の手紙

「私は生まれて来るべきではなかった」ということです。今回、前回の事件を起こす起こさないではなく、「生」そのものが、あるべきではなかった、と思っております。

社会に適応できない人は確実にいて、彼らにとってはこの世は地獄のようなものなのかもしれない。


p.251

僕は他の収容少年たから隔離され

誤植


1997年6月28日。
僕は、僕ではなくなった。

酒鬼薔薇聖斗を名乗った少年Aが18年の時を経て、自分の過去と対峙し、切り結び著した、生命の手記。

「少年A」――それが、僕の代名詞となった。
 僕はもはや血の通ったひとりの人間ではなく、無機質な「記号」になった。
それは多くの人にとって「少年犯罪」を表す記号であり、自分たちとは別世界に棲む、人間的な感情のカケラもない、
不気味で、おどろおどろしい「モンスター」を表す記号だった。