スポンサーリンク

天地明察 2014年12冊目

天地明察 ★★★★★



こよみに興味は全くない。こよみが世に及ぼす影響も分からない。星は好きだが天体の運行に関する難しい数学は苦手だ。
そんな自分にも読みやすく、読むのが楽しかった。
そして知的好奇心にあふれた人の何かに夢中になっている姿を見るのはなんとも心地が良かった。

途中まさか既にある授時暦を採用し推し進めたのびっくりした。てっきり暦を作る話だと想像していたからだ。”なんのための北極出地だったのか”と思ったが、その後はちゃんと大和暦を作り上げたのでほっとした。

その大和暦を採用させるためのたくさんの策略は、数手先を読むあざやかな碁の手のようだった。

今年一番の本かもしれないくらい面白い本だった。




知っていると読解に役立つ情報と語句

  • 必至 とは - コトバンク:指し切り攻め続けているうち,相手の受けによって後続の攻めの手段がなくなった状態。
  • 暦註とは - Weblio辞書:暦に記載される日時・方位などの吉凶、その日の運勢などの事項のことである。

p.49

今はまだ算術の公理公式というものが総合され始めたばかりであり、どの術も、多分に、個々人の才能と閃きによって導き出されることが多かった。
だからこそ面白い。未知こそ自由だった。誤りすら可能性を作り出し、同じ誤りのなかで堂々巡りをせぬ限り、ひとつの思考が、次の思考の道しるべとなる。

p.192

みな先を争って伊勢神宮の大麻を手に入れ、

ええ!

念の為に調べてみる。
参考:伊勢神宮大麻札って見たときびっくりしました。もしかしたら日本では大麻は自製し... - Yahoo!知恵袋
御札のことなんだ。


p.201

その宣明暦がこの国に将来されたのは天安元年、

将来?
しょうらい【将来】の意味 - 国語辞書 - goo辞書より

引き連れてくること。特に、外国など他の土地から持ってくること。

この使い方初めて見た。


p.207

「そのような人物が江戸にいるとは」
建部など力いっぱい拳を握りしめ、
「ぜひ弟子入りしたい」
はっきりとそう言った。なんと伊東まで首肯している。この二人の老人にとって研鑽のためなら三十も年下の若者に頭を垂れることなど苦でもなんでもないらしい。それどころか、
「だいたいにして若い師というのは実によろしい」
「ええ、ええ。教えの途中で、ぽっくり逝かれてしまうということがありませんから」
などと喜び合うのだった。

60代の老人の知的好奇心がすごい。


p.309

たかだ暦だと何度も自分に言い聞かせねばならなかった。そして、されど暦だった。
今日が何月何日であるか。その決定権を持つとは、こういうことだ。
宗教、政治、文化、経済――全てにおいて君臨するということなのである。

p.400

名をなした算術家であるばあるほど、”あの数理は己が解明した”という思いが強いのは当然である。それらを春海は一切の断りなしに授時暦解明に用い、かつ改暦の義に用いたのである。

p.402

「よもや、授時暦そのものが誤っているとは、思いもよらなかったと、そう言うかッ!」

それこそ関孝和による”誤問の出題”の真意であった。春海が授時暦の理解を誤ったのではない。授時暦自体が病題なのである。それゆえ蝕の予想を外した――
いったいこの天才は、どうしてそのような途方もない結論に辿りつけたのか。自分を始めとする改暦事業の関係者のみならず、日本で数理を知る者全て、想像だにせぬ””解答”だった。

宣明暦が間違っていたという例があったのに、なぜ確認しなかったんだろう。
術理なんか必要なく、今までの蝕や冬至の日などがちゃんと合っているかどうか調べるだけでいいのに。


p.443

定まった楕円軌道を地球が動いているのではなく、その楕円自体が、ゆっくりと移動していた。そして驚くべき誤謬を招いた。なんと授時暦が作られた頃は、近日点と夏至とが一致していたのだ。このため授時暦を作った元の才人たちは、それらが常に一致し続けるものとして数理を構築したのである。だが今、四百年もの時間の経過において、この近日点は、冬至から六度も進んでいた。

p.466

大統暦改暦の詔が発布されてから僅か七ヶ月後のその日。
霊元天皇は、大和暦採用の詔を発布された。

そんな短期間で決定を覆しては、朝廷の権威を損なうことにはならなかったのだろうか?






受賞歴
第31回(2010年) 吉川英治文学新人賞受賞
第7回(2010年) 本屋大賞受賞

内容(「BOOK」データベースより)
江戸時代、前代未聞のベンチャー事業に生涯を賭けた男がいた。ミッションは「日本独自の暦」を作ること―。碁打ちにして数学者・渋川春海の二十年にわたる奮闘・挫折・喜び、そして恋!早くも読書界沸騰!俊英にして鬼才がおくる新潮流歴史ロマン。
著者について
1996年、早稲田大学在学中に『黒い季節』で角川スニーカー大賞を受賞しデビュー。以後コミック・アニメとの連動を先駆的に行いマルチな活動を続ける。著作に『オイレンシュピーゲル』『マルドゥック・スクランブル』『ばいばい、アース』などがある。