スポンサーリンク

八日目の蝉

八日目の蝉 ★★★★★


久しぶりに素晴らしい本に出会った。
どうしてこう在り在りと体験したかのように書けるんだろう。
作家という人は凄いと思った。
また、作中に出てくる女性が皆子供に優しく、愛おしく接し、母性愛がにじみ出ている。
女性が読んだら堪らないだろう。

世俗と隔離されたエンジェルホームでの出来事は、いったいどういった意味があったんだろう。
エンジェルホームの件は省いて、コンパクトにしてもよかったんじゃないかと思う。
それから、最後二人が会話できなかったのが残念。
二人でお腹の子を育てていってくれたらと期待してしまった。

p.101
薫はころりとうつぶせになり、うつぶせになっそのことに驚くように目をぱちぱちさせている。

誤植

p.320
「前に、死ねなかった蝉の話をしたの、あんた覚えてる?七日で死ぬよりも、八日目に生き残った蝉のほうがかなしいって、あんたは言ったよね。私もずっとそう思ってたけど」千草は静かに言葉をつなぐ。「それは違うかもね。八日目の蝉は、他の蝉には見られなかったものを見れるんだから。見たくないって思うかもしれないけど、でも、ぎゅっと目を閉じてなくちゃいけないほどにひどいものばかりでもないと、私は思うよ」

p.322
第一回公判は、希和子逮捕の二ヶ月後、八十八年十一月に東京地裁で行われ、九十年十二月に裁決は結審している。希和子は終始一貫して罪を認め、事実関係では争っていない。

実話なのでは、と思うくらい設定がしっかりしている。

p.336
そうして私は、十七年前の港で野々宮希和子が叫んだ言葉をはっきりと思い出す。
その子は朝ごはんをまだ食べていないの。
そうだ、彼女は私を連れて行く刑事たちに向かってたった一言、そう叫んだのだ。
その子は、朝ごはんを、まだ、食べていないの、と。
自分がつかまるというときに、もう終わりだというときに、あの女は、私の朝ごはんのことなんか心配していたのだ。なんて―なんて馬鹿な女なんだろう。

母性が痛いほど伝わった。

内容紹介
逃げて、逃げて、逃げのびたら、私はあなたの母になれるだろうか−−理性をゆるがす愛があり、罪にもそそぐ光があった。家族という枠組みの意味を探る、著者初めての長篇サスペンス。 --このテキストは、 単行本 版に関連付けられています。
内容(「BOOK」データベースより)
逃げて、逃げて、逃げのびたら、私はあなたの母になれるだろうか…。東京から名古屋へ、女たちにかくまわれながら、小豆島へ。偽りの母子の先が見えない逃亡生活、そしてその後のふたりに光はきざすのか。心ゆさぶるラストまで息もつがせぬ傑作長編。第二回中央公論文芸賞受賞作。